ハートウォーミング
 

薬が安くなる?

病院でもらう薬の中で同じ成分の薬であっても、値段が全然違うものがあるということをご存知ですか?

例えば、ある製薬メーカーがある新薬を開発したとします。もちろんその製品には特許がかけられ、その特許期間は開発メーカーの独占販売となります。薬の開発には莫大なコストがかかるため、一般的に新薬の値段は高くなりますが、特許期間中は独占販売となるために、利用効果があるならば多少高くても売れるのです。ただ特許も時期がくると切れてしまうので、特許が切れると他のメーカーも同じ成分の薬を作って売ることができるようになります。ただ、後から作った薬は、同じ成分であるのに、開発費用が低く抑えられますので、価格を安くすることができるのです。こうして同じ成分なのに違う名前で値段も違う薬が生まれてくるのです。通常、はじめに開発された薬を先発(医薬)品、後からでてきたものを後発(医薬)品、ジェネリック品と呼んでいます。もしくは多少軽視の意味を込めてゾロ品(ゾロゾロ発売されるため)とも呼ばれます。
例えばデパス(抗不安、睡眠薬)が先発品としたら、エチカーム、エチゾラン、エチセダン、エチドラーム…などなど、数十種類の後発品があります。なんだか後発品の名前が似ていませんか? これは、デパスの成分の一般名がエチゾラムという名前からきています。ただし、アロファルム、セデコパン…など全然似ていない名前のものもあります。ただこれらの薬は全てエチゾラムという一般名の成分を持つ薬なのです。薬価を比較してみると、デパス1mg錠で17円なのに対して、後発品のものは約6円ぐらいと2倍以上も違っています。

現在、日本では欧米ほど後発品が普及していません。
後発品(ジェネリック品)というもの自体も知らない人も多いのではないでしょうか。薬を飲む立場から考えると、同じ効き目なら安い方がいいと思うのが普通であると思います。では、なぜ普及していないのでしょうか。後発品メーカーや国は、後発品の普及を進めています。メーカーが進めるのは、もちろん売り上げがのびれば、儲けが増えるからとわかるのですが、国が進めている理由はなんでしょうか。それは、医療費の問題です。医療費の増大が財政を圧迫しているので、安い後発品を使うことで医療費を抑えようとしているからです。
ただ、これらの理由はメーカーの立場であったり、国の立場での考えであって、薬を飲む立場からの意見ではありません。たとえば、処方箋がなくても薬局に行けばすぐ買える大衆薬なら、その薬を買うときのひとつの要因として価格というものはほとんどの場合に判断材料のひとつになってくると思います。ただ、そんな人でも病院でもらう薬に関しては、医療点数の計算が複雑なために、薬自体の値段がほとんど分からない(知らない)状態で、処方された薬を飲んでいる人も多いと思います。最近、医薬分業で、薬は処方薬局でもらう場合も増えてきたのですが、全く同じくすりでも、処方箋を持っていく薬局によって支払う値段が違ってくる場合もあったり、領収書(レシート)に薬の個別の単価が書いてあるわけでもないために、そんなもんなんだと高い薬を買わされている場合も多いのではないでしょうか。

 病院で処方される薬はどうやって選ばれているのでしょうか。患者の方からいろいろ意見もいうこともあるかもしれませんが、ほとんどの場合は医師が決めています。薬に対する詳しい知識を持った医師が、患者の意見を聞きながらも、最終的には医師が決めるのです。精神科の場合は、患者が「○○の薬が欲しいのですが…。」と言った場合に、患者の意見に全く耳をかそうとしない医師は問題ですが、それと同じぐらい患者の意見を100%受け入れる医師も問題です。患者の要求する薬(向精神病薬)をすぐに全て処方する医師が本当に治療に熱心であるとは考えにくいからです。
ほとんどの医師は、患者のために最良の方法を選択しようとするはずなので、医師の処方した薬を信頼して飲んでいくべきものなのですが、多くの医師が値段の高い先発薬を好んで処方するのは何故なのでしょうか。患者の経済的なことを考えると、同じ成分でも値段の安い後発薬の方が患者のためになるのではないでしょうか。多くの医師が先発品を好み後発品を敬遠するにはいくつかの理由があるのです。

まず経済面から考えてみましょう。
その前に薬の受け取り方には2種類あるというのは知っていますでしょうか。ひとつは病院の窓口で受け取る院内処方、もうひとつは病院で処方箋をもらってそれを調剤薬局に持って行き、そこで薬を受け取る院外処方です。以前は院内処方がほとんどでしたが、現在では院外処方も随分と増えてきました。どちらがいいかということは、また別のところで考えるとして、ここでは少し前まで主流であった院内処方の場合を考えてみます。薬を院内処方するということは、形式上は病院が薬を製薬メーカーから購入し、それを患者に販売するという小売店のような形式になります。ただ薬という商品の性質上、安売りをして販売個数を上げ利益を得るということができません。販売価格(薬価)が決められているからです。では、薬を出すことによって病院に利益はないのかというと、そうではありません。薬の購入価格は病院とメーカーとの交渉によって決められるのです。例えば病院がメーカーから購入する購入価格にも消費税はかかりますので、病院が薬価で購入したならば、その病院は薬を出せば出すほど赤字になっていきます。ただ、実際には薬価より安い値段で購入されているために、薬を出せば出すほど利益がでるような仕組みになっています。さらに、購入価格と販売価格(薬価)の差が大きければ大きいほど、薬ひとつに対する利益が上がるようになっているのです。感のいい人はもう気付いていると思いますが、病院が薬を購入する時の割引率が同じであった場合、当然単価の高い薬の方が利益としては大きくなってきますので、薬価の高い先発品を使う方が病院の利益になるのです。もちろん、私利私欲だけを考えている医師は、ほんの一部でしょうし、ほとんどの医師は本当に患者さんのことを考えているのでしょうが、病院や診療所にも経営というものがありますので、利潤を求めることは仕方のないことなのかも知れません。また、最近では、薬価の決められ方に、病院が実際に仕入れている価格を反映するようになってきました。つまりメーカーが安く売れば売るほど、その薬の価格がどんどん安くなっていくようになっており、購入価格の割引がしにくくはなってきています。また国としても価格の安い後発品を促進する上で、後発品処方に関して医療点数を上乗せすることができるように改正しています(安い製品を買わせるために、その製品に対して実際に支払う金額が高くなるというのも皮肉なのですが…)。

次に別の側面から考えてみます。よく言われることは後発品は品質的な問題は大丈夫なのかということと、その製品に関する情報量の問題です。品質の問題に関していうと、同成分の後発品が数十種類もある場合もありますし、後発品といってひとつにまとめてしまうことに問題があるようです。後発品メーカーには、同じ成分で価格が安いということを売りにしているところもありますが、たとえ同じ成分であったとしても、同じ製法であるとは限りません。製造ラインの信頼度も当然違ってくるでしょうし、「安かろう、悪かろう。」ではダメなのです。もちろん全てのメーカーが同程度に高い信頼度の製品を製造できるとも考えにくいことです。つまり後発品の中には信頼度の低いものも交じっているかもしれないということです。つまり医師は自分の責任において患者に薬を処方するわけですので、その場合に自分が長年処方している先発品を選ぶ傾向になるということは、患者の安全性を一番に考えなければならない医師としては当然の結果でもあるのです。ただ、先発品はブランド価が高く、後発品にはそれが低いという傾向も全くないわけではありません。実際、電機業界、車業界のように製造を後発品メーカーに受託して自社ブランドとして売っている場合もありますし、その場合、製造設備も決して見劣りするものではありません。ただ、ブランド力が違うのです。日本人のブランド志向は高いと言われていて、医師も日本人なのですから…。
では、実際に本当に全く同じもので、全く同じ信頼性がある先発品と後発品があったとします。物は全く同じものでも、先発品と後発品の蓄積データには歴然とした差があります。それは当然の結果で、先発品メーカーは開発からのデータを持っており、特許期間中の独占販売期間のデータを持っているわけです。薬はデータ(情報)があってこそ、初めて有効な治療手段となり得るということ(全くデータのない薬を飲む勇気はありませんよね)から考えると、治療効果データとともに副作用に関するデータも豊富な先発品の方が、処方する医師にとっては安心感があるということも十分に理解できます。実際、医療の現場でそのような膨大なデータを常に全てを把握しているわけではありませんが、必要な時に発売メーカーに問い合わせることによって、必要なデータ(情報)が得られやすいという状況は、治療効果とともに副作用等にも十分な考慮が求められる医師にとっては何ものにもかえがたいことになります。その結果がそのまま患者の安全につながることになりますので、先発品が単に高いだけのものであるという考え方は、現実的には少し違っているのかも知れません。単に安いからという理由だけで、情報が少ない(得られにくい)薬の方を選ぶというのも考えものですよね。では、全く同じものなのであれば、安い後発品を購入して、情報を得る時は先発品メーカーに聞けばいいのではと思ってしまいますが、メーカーも営利企業です。他社の製品を購入している病院に対して、気持ちよく情報提供だけしてくれると考えるのは少し甘い考えなのかもしれません。「自社の製品に関しては分かるのですが、他者の製品に関しては分かりません。」との返答であっても仕方ありませんよね。実際、メーカーが他社製品に関して答えることは無責任にもなりかねません。

それから、少し首を傾げたくなる理由として医療ミスの問題が挙げられます。
医師は薬の処方箋を書くのですが、実際に調剤するのは薬剤師になります。これには業務の分担や二重チェックを行うといった意味があり、原則としては医師が自ら調剤をしてはいけないことになっています。つまり、実際に診察をして患者の状態を判断し薬を処方する人とその処方箋を見ながら調剤する人が違うわけですから、二重チェックができるというメリットもありますが、それと同時に複数の人が関与することによるミスの可能性もでてくるわけです。実際に処方箋は医師が書くものだといいますが、実際にはほとんどの場合、医師はカルテに処方を書いて、それを薬剤師なり他の職員が処方箋に書き写すもしくはパソコンに入力をして処方箋をプリントアウトするといった手順で作業が流れていきます。そこには書き間違いや読み間違い、入力ミスが全くないと断言はできません。また、病院内では一般的に、薬の一般名ではなく製品名で意思伝達をしているところが多く、特許期間中でその成分の薬が一種類しかない場合はそれでいいかもしれませんが、同じ成分の薬で、多数の製品名がある場合、全然違う成分の薬と名前が似ていたりすると職員間での意思伝達にミスが生じやすかったり、その病院で使う薬の名前がころころと変わることで、混乱を生じてミスが増えてしまう可能性があるといった理由です。極論で言うと、医療ミスを防ぐために患者の負担増は仕方がないと言っているようなもんです。もちろんただでさえ薬の種類は膨大なものですので、さらにその何倍もの薬の名前を覚えないといけないとなるとミスも多くなるのかも知れませんが、それを堂々と理由として挙げてこられると、ちょっと待てよと言いたくもなる人も多いのではないでしょうか。患者は自分を(医療ミスから)守るためには、それなりの負担をしなければいけないっていうことなのでしょうか。

ここまで読んできて、どのように思ったでしょうか。先ほども書いたように、国は薬価の安い後発品の普及の方向性で動いています。後発品処方で医療点数が高くなるようにしたり、医薬分業を進めることで院内大量処方での利益を得ることができなくなったりと先発品よりも後発品を使うメリットを大きくする方向性に向かっています。ただ、ブランド、情報量、名前の複雑化といったような問題もあり、なかなか先発品のシェアが減らないのも現状です。そこで、後発品に関しては、メーカーそれぞれが固有の製品名をつけるのではなく、成分の一般名とメーカー名を併記して、その薬の製品名とする動きも出てきています。それと同時に、院外処方が多くなってきていることに伴い処方箋を製品名ではなく、一般名で記載して、その成分の製品の中から薬を飲む側が製品を選べるようにしていこうという動きもあります。現在でも、薬局に薬を取りに行った時に、「処方箋に書いてある薬の名前とは違いますが、同じものですので…。」と薬を渡された経験がある人も少なからずいるかもしれません。その製品を探して別の薬局にいく手間を考えると患者にとったら、親切であると感じるかもしれませんが、これは見方を変えると詐欺行為にあたります。つまり仕入れ原価の安い製品を客に渡し、高い薬価で医療点数を請求するのですから…。でも、処方箋が成分名で書かれていたならば、そんなことも起こりません。冒頭で後発品のことをジェネリック品とも呼ぶと書きましたが、ジェネリックとは成分という意味があります。

さて、もしあなたの処方箋が製品名表示ではなく、成分名表示だった場合、あなたはどちらを選びますか? 高い先発品か、安いジェネリック品か…。




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